ピアノと弦楽器のための室内楽曲
ヴァイオリン・ソナタ (全10曲)
初版では「クラヴィチェンバロまたはフォルテピアノのための、ヴァイオリンを伴う3つのソナタ(Op,12)」「ピアノフォルテのための、ヴァイオリンを伴う2つのソナタ(Op.23)」などというように表記されていたが、ここでは現在の一般的な「ヴァイオリン・ソナタ」という書き方を採用する。
第1番ニ長調 Op.12-1
作品12の3曲のソナタは1979-98年に作曲され、サリエリに献呈された。第1番は古典的で形式感がしっかりした作品といえる。
第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ、ニ長調、4/4拍子、ソナタ形式。冒頭のトニカの和音、及び続く分散和音、そしてピアノのレガートの旋律の上に奏でられるヴァイオリンによる主題。経過句の最後で
f の上行音階が終止、すると第2主題がピアノの右手に現れ、この演奏効果は新鮮だ。ただ、「表情豊かな演奏」だと拍子感がなくなりやすい箇所とも言える。提示部の最後でA-dur、a-moll、F-durと転調するところにベートーヴェンらしい音楽が感じられる。展開部では分散和音の動きに「チェロソナタ第1番」や「ピアノソナタ第3番」の雰囲気に似た部分があるのが興味深い。
第2楽章 アンダンテ・コン・モート、イ長調、2/4拍子。変奏曲形式。ピアノによるテーマをヴァイオリンが受け継ぐ。その後、4つの変奏が続くが、短調の第3変奏での大胆なデュナーミク、最終の第4変奏の美しいコーダが聴きどころと言えよう。
第3楽章 アレグロ、6/8拍子、ロンド形式。明るく楽しい主題がピアノに奏される。この主題には第2小節にターン、第4小節にプラルターンがある、これをほとんどの人が同じ装飾音として弾いているが、何か違いはないのだろうか?全体は古典的な明るさに満ちた、心地よい音楽である。
第2番イ長調 Op.12-2
軽快さ、明るさが特徴のソナタと言える。
第1楽章はイ長調、アレグロ・ヴィヴァーチェ、6/8拍子、ソナタ形式。2つの主題は流れの良いものだが、メロディックというよりは断片的であり、小結尾のユニゾンの存在感が目立つ。
第2楽章はイ短調、アンダンテ・ピウ・トスト・アレグレット、2/4拍子、三部形式。「交響曲第7番」や「ピアノ協奏曲第4番」の緩徐楽章を思わせる物語性・悲劇性をもつ。緩徐楽章の名作である。
第3楽章はアレグロ・ピアチェヴォーレ、イ長調、3/4拍子、ロンド形式。調の変化に独自性が見られる、楽しい気分のロンド。
第3番変ホ長調 Op.12-3
第1楽章 アレグロ・コン・スピーリト、変ホ長調、4/4拍子、ソナタ形式。劇的で変化に富む。ピアノが前2作に比べ格段に技巧的になっていることも特徴である。
第2楽章 アダージョ・コン・モルテスプレシオーネ、ハ長調、3/4拍子、三部形式。美しく瞑想的な緩徐楽章。第1部で、ピアノの伴奏形に「ピアノ・ソナタOp.31-2(テンペスト)」の緩徐楽章を思わせる部分があるほか、再現部ではベートーヴェンらしい、美しい装飾句が見事である。
第3楽章 アレグロ・モルト、変ホ長調、2/4拍子、ロンド形式。ハイドンやモーツァルトだと「Allegretto」と書きそうな主題に思えるが、テンポが速く颯爽とした楽章である。
第4番イ短調 Op.23
1800〜01年作曲。第5番と並行して作曲されたらしい。作品12の3曲より一層充実した作風を示しているとして、当時の人々も高く評価した作品である。
第1楽章 プレスト、イ短調、6/8拍子、ソナタ形式。緊張感に満ち、劇的な構成を示す素晴らしい楽章。提示部、展開部と再現部をそれぞれ繰り返す指定になっている。この楽章の展開部が前作に比べてかなり大規模になっていることに注目したい。
第2楽章 アンダンテ・スケルツォーソ・ピウ・アレグレット、イ長調、2/4拍子。シンコペイションで切れ切れの動機からなる主題と、対位法的な副主題からなる。この楽章にはベートーヴェンのユーモアが感じられる。
第3楽章 アレグロ・モルト、イ短調、2/2拍子。自由なロンド。流れるような主題がベートーヴェンらしい情熱的な音楽へと変化してゆく。イ長調のエピソードはスタッカートの和音が特徴で、ヘ長調のエピソードは全く変わってコラール風の音楽である。3回目の主題再現では、のちの「クロイツェル」ソナタを思わせる力強いパッセージがみられることを指摘しておきたい。
第5番ヘ長調 Op.24(「春」)
1800〜01年作曲。曲のタイトルは作曲者によるものではない。ヴァイオリンの旋律美が今まで以上特徴的な1曲で、初の四楽章制によるヴァイオリン・ソナタ。
第1楽章 アレグロ、ヘ長調、4/4拍子、ソナタ形式。印象的な第1主題は、クレメンティのピアノソナタ(Op.25‐4)とどことなく似ているが、他にも例があるそうだ(『ベートーヴェン事典』東京書籍)。この楽章はよくある主題の順序「第1主題:男性的/第2主題:女性的」を逆にした点が特徴。展開部では第2主題が展開され、3連符のダイナミックな動きに特徴がある。
第2楽章 アダージョ・モルト・エスプレシーヴォ、変ロ長調、3/4拍子。自由な変奏曲形式。緩徐楽章として長すぎず、間奏をはさみながら展開される穏やかな変奏。途中で変ロ短調に転ずる部分はとりわけ美しい。
第3楽章 スケルツォ、アレグロ・モルト、ヘ長調、3/4拍子。何気なく弾き飛ばしそうな楽章であるが、リズムに注目。休符に付点があって鋭いリズムになっていることに注意する必要がある。
第4楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ヘ長調、2/2拍子、ロンド形式。第1副主題にみられる「ハ短調〜ハ長調」などの調感覚、さまざまな演奏技巧の駆使、第1楽章との動機関連、各主題再現時に遠隔調まで用いられる点など、初期作品とは一線を画した、広がりのある世界がここにはある。
第6番イ長調 Op.30-1
Op.30の3曲はロシア皇帝アレクサンドル2世に献呈されたものである。1802年作曲。
第1楽章 アレグロ、イ長調、3/4拍子、ソナタ形式。ポリフォニックな第1主題とホモフォニックな第2主題との対比が鮮やかである。展開部で様々な技法が繰り広げられるのも魅力的な楽章。全体は穏やかで抒情的な楽章。
第2楽章 アダージョ・モルト・エスプレシーヴォ、イ長調、2/4拍子。ロンド形式。付点音符の伴奏の上に息の長い旋律が歌われる。
第3楽章 アレグレット・コン・ヴァリアツィオーニ、イ長調、2/2拍子。主題と6つの変奏。変奏曲の名人ベートーヴェンらしい見事な楽章である。特に第5変奏でイ短調になり対位法的な進行になる部分と、第6変奏の長いコーダが素晴らしい。
第7番ハ短調 Op.30-2
第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ、ハ短調、4/4拍子、ソナタ形式。ドラマティックな構成の楽章で、他の「ハ短調」作品にもみられる性格が感じられる。提示部を反復しない形式はヴァイオリンソナタでは初めてで、ピアノソナタでも「Op.54(第22番)」まで見られない。
第2楽章 アダージョ・カンタービレ、変イ長調、4/4拍子、三部形式。メンデルスゾーンを思わせるような美しい主題。中間部は変イ短調に転じ、スタッカートの分散和音がメロディーを彩る。再現部は伴奏を変奏させ、コーダでは新たな展開も現れる。
第3楽章 スケルツォ アレグロ、ハ長調、3/4拍子。軽快な主題はスフォルツァンドに特徴をもつもの。トリオもハ長調。
第4楽章 フィナーレ アレグロ、ハ短調、2/2拍子。ロンド・ソナタ形式。主題の前半はピアノの低音でドミナントを導き、反復音が特徴。主題後半はメロディックになり、軽快な変ホ長調のB主題となる。ピアノ三重奏曲第3番(ハ短調)のフィナーレを思わせるような、「疾風怒濤」様式の楽章と言えるだろう。
第8番ト長調 Op.30-3
1801年〜02年作曲。「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれた年にOp.30の3曲は作曲された。この曲は流麗で心地よい楽想が支配的であり、ト長調という調にしばしばみられる「運動性」が特徴である。
第1楽章 アレグロ・アッサイ、ト長調、6/8拍子、ソナタ形式。ユニゾンで奏される楽しげな第1主題、第2主題はニ短調に転じ、だんだんニ長調に向かう。いたるところに
sf が付けられ、リズム的な特徴も大きい。
第2楽章 テンポ・ディ・ミヌエット、変ホ長調、3/4拍子。複合三部形式。この曲の旋律は「ピアノ三重奏曲Op.70-2」の第3楽章や「幻想曲Op.77」「ピアノソナタ第31番Op.110」の第1主題、にも用いられているもの。よほど気に入っていたのだろう。メヌエットと緩徐楽章の二つの要素を持つ楽章で、それゆえ、楽章としてはやや長い印象もある。
第3楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ、ト長調、2/4拍子。ロンド形式。「ピアノソナタ第12番」最終楽章のような、一種の「無窮動」を感じさせる。ピアノの保続音が特徴で、どことなく田舎風、民謡風の楽想がヴァイオリンで奏される。ロンド形式としては分かりやすい構成になっている。フェルマータのあと、コーダでは変ホ長調に転じ、ベートーヴェンらしい絶妙の転調が見られるところもなかなか面白い。
第9番イ短調 Op.47(「クロイツェル」)
1803年にウィーンを訪れたイギリスのヴァイオリニスト、ブリッジタワーのために書かれた作品。しかし献呈がブリッジタワーではなく、ベルナドット将軍の随行員としてウィーンに来ていたヴァイオリニスト・作曲家ロドルフ・クロイツェル(Rodolphe Kreutzer[クレゼール])に対してなされたので「クロイツェル・ソナタ」の名称で呼ばれる。フィナーレは本来、作品30-1のための書かれたものだった。自筆譜にははじめ「ほとんど協奏曲のように輝かしくきわめて協奏的なスタイルで書かれたソナタ」と書かれていたという。
第1楽章 アダージョ・ソステヌート、イ長調、3/4拍子――プレスト、イ短調、2/2拍子、ソナタ形式。ヴァイオリン・ソロの序奏でイ長調で開始し、すぐにピアノがイ短調て受け継ぐという大胆な開始。この序奏では第11小節に見られるような不協和音の効果的な使い方も印象的である。疾走するような主部は、二度のフェルマータをもつ劇的なもので、速度感はピアノソナタOp.10-3(第7番)と似ているが、こちらはイ短調であり、悲劇性が強い。力強い第1主題の後、穏やかな第2主題が現れ、小結尾では新しいメロディーが登場する。これは第3主題というほどの印象的なものである(第2主題が3つの部分から構成されるという説もあるらしい)。
第2楽章 アンダンテ・コン・ヴァリアツィオーニ、ヘ長調、2/4拍子。主題はピアノに現れ、ヴァイオリンに受け継がれる。54小節という長いものである。続く4つの変奏は、ピアノソナタOp.57(熱情)の第2楽章と共通した最高の変奏技法を示したものと言え、また、のちのピアノ三重奏曲Op.97(「大公」トリオ)の緩徐楽章とともに、室内楽作品の変奏曲としては最高の位置を占めるものと言えよう。
第3楽章 フィナーレ プレスト、イ長調、6/8拍子。ソナタ形式。タランテラ風のリズムという点では、ピアノソナタ Op.31-3 のフィナーレを思わせる。この楽章は時々2/4拍子に変化し、一旦楽想が穏やかになるところが面白い。全体は極めて演奏効果の高い音楽である。
第10番ト長調 Op.96
1812年、フランスのヴァイオリニスト、ピエール・ロードのために作曲された。初演はロードとルドルフ大公により、ロプコヴィッツ侯爵邸で行われている。
第1楽章 アレグロ・モデラート、ト長調、3/4拍子、ソナタ形式。穏やかな気分が支配する楽章。ピアノパートは3度進行が多いのが特徴。
第2楽章 アダージョ・エスプレッシーヴォ、変ホ長調、2/4拍子、ニ部形式。瞑想的な緩徐楽章。ピアノ伴奏は時々シンコペーションになっている。
第3楽章 スケルツォ アレグロ、ト短調、3/4拍子。複合三部形式。前の楽章から続けて演奏される。トリオの低音オスティナートはこの作品が後期様式に近いところにあることを感じさせる。
第4楽章 ポーコ・アレグレット、ト長調、2/2拍子。変奏曲形式。ベートーヴェンの変奏技巧が存分に駆使される見事な楽章。第5変奏、アダージョ・エスプレシーヴォは「ディアベリ変奏曲」の世界を思わせるような深い抒情性を示している。
チェロ・ソナタ
ベートーヴェンのチェロ・ソナタは全部で5曲あり、二つの楽器の対等性という点で「画期的な作品」と言われている。
第1番 ヘ長調 Op.5-1
ベートーヴェンは、ヴィーンで演奏家としてデビューしたのちに、意欲的な作品を次々と発表していった。「作品1」はピアノ三重奏曲、作品2は三曲のピアノ・ソナタ、というように。この「チェロ・ソナタ」は1796年に作曲され、彼の初めてのチェロ作品であった。二つの楽器が対等に扱われているという点で画期的な作品であり、初期の傑作である。この作品が書かれることになったのは、ベルリン在住のフランス人チェリスト、ジャン=ルイ・デュポールの存在が大きい。ベートーヴェンはデュポールとともにこの作品を、ベルリンの宮廷で初演したという記録が残っている。作品は二楽章で構成される。さまざまなチェロの演奏技巧とともにピアノも幅広い音域を駆使して活躍し、スケールの大きい音楽となっている。
第1楽章: アダージョ・ソステヌート ヘ長調 3/4拍子/アレグロ ヘ長調 4/4拍子、ソナタ形式。おおらかな序奏のあと、いかにも初期ベートーヴェンらしく力強い第1主題がまずピアノ、続いてチェロに現れる。第2主題はハ長調でチェロが美しく奏でる。全体に華麗な技巧が目立ち、大胆な和声・転調にも個性が感じられる楽章。コーダも念入りで見事なものだ。
第2楽章: ロンド アレグロ・ヴィヴァーチェ 6/8拍子、ロンド形式。主題はチェロで冒頭に示され、軽快で楽しい楽想が全曲を支配している。
★ 演奏上の注意点: 第1楽章アレグロ主題2小節目でみられる複付点。4/4拍子であることと共にテンポを暗示するものと考えられる。
第2番 ト短調 Op.5-2
第1楽章は、序奏つきソナタ形式。序奏(Adagio sostenuto ed esupressivo)は劇的なもので、さまざまな感情が交錯する。主部(Allegro
molto più tosto presto)はチェロに提示されるが、伴奏に工夫がされている。つまりW度調のX度という和音を用い、一瞬だがハ短調かと思わせるのだ。こういう調感覚はベートーヴェンらしい。展開部・再現部に繰り返しがされた後、コーダとなる。
第2楽章は軽快で明るいロンド。リズミカルで技巧的な主題がピアノで奏されたのち、ニ長調、ハ長調のエピソードが現れる。華麗なパッセージに彩られたフィナーレである。
第3番 イ長調 Op.69
ベートーヴェンらしい大きな構想の作品と言える。作品番号から想像できるように「運命(Op.67)」「田園(Op.68)」交響曲と同じ頃の作品であり、例えば「ヴァルトシュタイン」ソナタの演奏と同じくらいの心構えが必要であろう。
第1楽章はチェロの独奏で始まり、ピアノが受け継ぐ。半終止のあとピアノのカデンツァ。この辺は「クロイツェル」ソナタとそっくりだ。展開部では嬰へ短調へと転じ、悲劇的な感情が美しく歌われる。この楽章にみられるピアノの音型はピアノ協奏曲「皇帝」を思わせる部分がたくさんあり、華麗かつ雄大である。演奏者には曲全体を見通した構成力が求められると言えるだろう。
第2楽章はピアノの主題で始まるが、指使いが独特。後期ピアノソナタに見られるような同音を4-3と指を変えて奏する方法で、チェルニーはこの奏法について詳細にその著書(『ベートーヴェン全ピアノ作品の正しい奏法』)で述べている。
第3楽章はアダージョ・カンタービレの序奏ののちにアレグロとなり、チェロで伸び伸びとしたテーマが奏される。
★ 演奏上の注意点: 第3楽章の第2主題でしばしば音の長さ、休符の長さの関係で拍子感が失われることがあるので要注意。
第4番 ハ長調 Op.102-1
作曲されたのは1815年で、いわゆる「停滞期」にあたっている。二つのチェロソナタのほかには大きな作品は見られず、後期様式へとベートーヴェンの作風が変化していった時期の曲と考えられる。
第1楽章は、静かで柔らかなアンダンテの序奏のあと、アレグロ、イ短調に転じて力強い楽想が展開される。しかしなぜイ短調なのだろう。この辺、構成がかなり自由になってきているのかも知れない。
第2楽章は、瞑想的なアダージョの序奏の後、第1楽章冒頭を回想するようなフレーズが現れ、アレグロ・ヴィヴァーチェとなる。この辺の構想は「ピアノソナタ第28番」と似ている。「ピアノ協奏曲第4番」のフィナーレともある意味共通する性格と言えるだろう。特徴的なのは展開部で、断片的で思索的な動機の扱いが面白い。
第5番 ニ長調 Op.102-2
第4番の自由な曲想に対してこちらは同じ「Op.102」でも古典的なソナタ。チェロ・ソナタとして初めて独立した緩徐楽章を置き、構成的に完成度の高い作品。終楽章でフーガを用いるなど意欲的な部分もある。
第1楽章は大きさ、力強さを感じさせる楽章。主題の10度の跳躍は「ハンマークラヴィーア」ソナタの冒頭を思わせる。
第2楽章は内容の豊かなアダージョで、主題はコラール風。抒情的で瞑想的な、まさに後期のベートーヴェンだ。4分の2拍子で書かれているがだんだん音符が細分化する手法は「ピアノ協奏曲第3番」第2楽章や、「告別」ソナタの第2楽章との共通した世界を感じさせる。
第3楽章は4声のフーガ。このジャンルでは珍しいスタイルだが「後期様式」でしばしば見られる対位法様式である。
ピアノ三重奏曲
ピアノ・トリオは通常ヴァイオリン・チェロ・ピアノですがViolinの代わりにClarinetが入る「クラリネット三重奏曲」もここに入れます。この演奏形態は、演奏者の個性を最大限に発揮しつつ、オーケストラのようなスケールの大きい音楽を表現できるものと言えます。
第1番 変ホ長調 Op.1-1 (1793〜95年作曲)
作品番号が付けられた第1作。この作品はボン時代に作曲され、第2番・第3番の作曲の際に改訂されたらしい。
第1楽章の主題を聴くとウィーン古典派の典型的な主題だが(上行するアルペジオはピアノソナタ第1番とも共通)、提示部後半の3連符パッセージになるとベートーヴェンの躍動的なパッセージが出現、「合唱幻想曲」などを連想させるところもある。
第2楽章はABA(2)CAの 一応ロンド形式と見ることができる。C部分の変イ短調のところがベートーヴェンらしい転調。
第3楽章はスケルツォ。最初のうちはどんなフレーズになっているかわかりにくく、調性も確定しないところが面白い。
第4楽章はプレストでソナタ形式。ハイドン風のフィナーレ。第1主題は休符を挟んだ10度の跳躍が特徴で、第2主題は3連符の伴奏の上で軽快な旋律が奏でられる。
第2番 ト長調 Op.1-2 (1793〜95年作曲)
第1楽章 序奏つきのソナタ形式。序奏はハイドンの交響曲、あるいはベートーヴェンの交響曲第2番を思わせる安定感のあるもの。アレグロ・ヴィヴァーチェの第1主題は16小節の息の長いもので、開始に主和音を用いないベートーヴェンらしい主題といえるが、この主題はヴァイオリン、チェロが入ると堂々と主和音で確保される。全体的にピアノの3連符などのパッセージが華麗に繰り広げられるのが印象的である。それと、終止と思わせたあとに変ホ長調のコーダが続くのが面白い。
第2楽章 ホ長調の緩徐楽章。落ち着きのある第1主題と、憧れに満ちた高音域の第2主題の対比が美しい。
第3楽章 第1番と同様に調性が不安定で、ト長調が確立しないままにニ長調でフレーズを終えるのが特徴。ト長調が確定するのは第1部も後半になってからである。トリオは民族音楽的香りを持つもので、ピアノの長いトリルが非常に美しい。
第4楽章 第1主題はヴァイオリンの急速な反復音が特徴で、楽しい気分に満ちている(この主題はピアノの時はトリル音型となる)。第2主題はピアノで軽やかに奏でられるもの。ピアノはそのあと分散オクターヴで華麗なパッセージを繰り広げる。提示部の終わりやコーダで現れるcalando、rallentandoが効果的である。
第3番 ハ短調 Op.1-3(1793〜95年作曲)
ベートーヴェンの個性が3曲中で最も強いものと言えるが、ハイドンの「交響曲第95番」がモデルという説もある。
第1楽章 ロマン的な表現が特徴の楽章である。第2主題後の突然のff、小結尾でのナポリ6和音の使用など、個性的な表現の方向が感じられる。
第2楽章 主題と5つの変奏及びコーダ。各楽器の個性が生かされた、見事な変奏曲である。
第3楽章 メヌエット。のちの「セリオーソ」四重奏曲を思わせる気分である。
第4楽章 力強い主題は休符を効果的に用いたものである。この楽章はピアノソナタ第1番のフィナーレとも共通する「疾風怒濤」的な音楽であり、「ベートーヴェンのハ短調」としての存在感をはっきりと示している。
第4番 変ロ長調 Op.11(1797〜98年作曲?)
「街の歌」と呼ばれることがあるが、「Gassenhauertrio」の訳で、「流行歌」に近い意味だそうである。フィナーレの旋律が当時のコミック・オペラ(ヨーゼフ・ヴァイグルの「船乗りの愛」)の旋律からとられたことに由来する。この旋律の使用に関しては、あるクラリネット奏者の希望があったからとする説、出版者が旋律を提供して変奏楽章にするよう提案したのちに作曲者がヴァイグルの旋律だと知って怒ったという説、などさまざまである。
第1楽章 ユニゾンで開始される力強い第1主題のあと、属和音の終止後、唐突とも思えるニ長調〜ト短調の楽節が特徴的である。
第2楽章 チェロからクラリネットに受け渡されるおおらかな主題が魅力的である。中間部は変ホ短調〜ホ長調と展開され、ピアノの装飾句が見事である。
第3楽章 主題と9つの変奏。各変奏には長さの上でも工夫がなされ、変化に富んだ変奏曲となっている。
第5番 ニ長調 Op.70-1「幽霊」(1808年作曲)
第2楽章の特徴的な楽想から「幽霊」というニックネームを持つ作品。傑作が多く作られた年の作品であり、充実した内容を示す作品といえる。
第1楽章 第1主題はユニゾンの力強い前半と、チェロ、ヴァイオリンと続くおおらかな旋律からなる。展開部とコーダが見事。この曲が「交響曲<英雄>」「交響曲第5番・第6番」と同じ時期の作品であることを感じさせてくれる。
第2楽章 神秘的かつ抒情的、そしてピアノの精緻な処方が際立つすばらしい楽章。ハ長調への転調に「第9交響曲」第2楽章との関連を指摘する人もいる。
第3楽章 のびのびとした、おおらかな旋律で始まる主題はフェルマータで2度ブレーキのかかる形。アンサンブルの楽しさ、面白さが味わえる楽章であり、ベートーヴェンらしい雄大な音楽である。
第6番 変ホ長調 Op.70-2
第1楽章 穏やかな序奏ののちに6/8拍子の快活な第1主題が現れ、チェロの力強い旋律となる。そして序奏動機を思わせる旋律の後、優美な第2主題へと続く。コーダでは序奏が再現されるのも特徴。
第2楽章 アウフタクトで始まる主題はロンバルディア・リズムを特徴としたもので、優雅な雰囲気を持つ。ハ短調の重厚な楽想が続き、このハ長調とハ短調の交替で進行してゆく。
第3楽章 高貴な気分を感じさせる変イ長調のメヌエット。続く変ホ長調の旋律は「ヴァイオリン・ソナタ第8番Op.30-3」「ピアノソナタ第31番Op.110」にも使用されるお気に入りのものである。
第4楽章 導入(6小節)のあと力強い第1主題がピアノで奏される。第2主題が3度上の調(ト長調)で現れるのは「ピアノ・ソナタOp.53」と似ている。この第2主題は再現部ではハ長調となる。
第7番 変ロ長調 Op.97 「大公」
この分野の最高傑作と称される1曲。
第1楽章 悠然とした第1主題はのちのロマン派のアレグロ楽章を予感させるもので、3度関係で完全シンコペーションで書かれた第2主題との対照が見事だ。
演奏上の問題点: 第188小節の4番目の8分音符は譜面上ではCisだが Cにして演奏する人もいる。
第2楽章 規模がかなり大きく、シンフォニックなスケルツォ。
第3楽章 後期様式の深遠な精神を感じさせる楽章で(アダージョではなくアンダンテ・カンタービレであることに注意)、変奏曲形式。
第4楽章 明るくのびのびとしたロンドである。コーダはかなり大きいもので、プレスト、イ長調に転じた後に主調に再帰、輝かしく曲を閉じる。
カカドゥ変奏曲 ト長調 Op.121a(1803年作曲?)
正式な題名は「ヴェンツェル・ミュラーの≪プラハの姉妹≫から リート<私は仕立て屋 カカドゥ>による変奏曲 ト長調。主題の前にベートーヴェンによるト短調の序奏がつけられている。
各楽器それぞれに技巧的な変奏が繰り広げられ、第10変奏まで行われる。この最後の変奏は3つの部分に分かれ、ト長調6/8〜ト短調6/8にあとト長調で元のテンポにもどったあと、華やかに曲を閉じる。
ピアノ四重奏曲
(作成中)
3つのクラヴィーア四重奏曲 WoO 36
第1番 ハ長調
第2番 変ホ長調
第3番 ニ長調